はじめに:重度になる前に気づいてほしい

BMI17.8という明らかな痩せ型でありながら、重度の睡眠時無呼吸症候群と診断された私の体験をお伝えします。
重度まで進行してしまうと自然治癒は極めて困難で、生涯にわたる治療が必要になります。この記事は、私と同じような状況の方が一人でも減ることを願って書いています。痩せているから大丈夫、若いから大丈夫という思い込みが、取り返しのつかない結果を招くことがあるのです。

私もそう思ってました…
理学療法士として働く私が、ADHDの診断を受けた時期から、なぜか毎朝の疲労感が取れず、日中の強い眠気と集中力の著しい低下に悩まされるようになりました。「ADHDだから仕方ない」と思っていましたが、実は別の深刻な原因が隠れていたのです。
転機となったのは、妻からの一言でした。



夜中に急に身体を起こしてることが多いよ、苦しそう。
この言葉がきっかけで受診を決意しました。



妻にはとても感謝しています
睡眠時無呼吸症候群の検査を受けた結果、1分間に40回も呼吸が止まっていることが判明しました。医師から「痩せ型の方にも無呼吸は起こります。特に姿勢が関係していることが多いんです」と説明を受けたとき、理学療法士としての知識と自分の体験が繋がった瞬間でした。



衝撃的すぎた!
この記事では、一般的にはあまり知られていない「痩せ型の睡眠時無呼吸症候群」と姿勢の関係について、理学療法士かつ当事者としての視点から詳しく解説します。
睡眠時無呼吸症候群の基本知識


睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)は、睡眠中に呼吸が止まったり浅くなったりする病気です。一般的には以下の2つのタイプに分けられます。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)
- 気道が物理的に閉塞することで起こる
- 全体の約85%を占める
中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)
- 脳からの呼吸指令が途絶えることで起こる
- 比較的稀なタイプ
ADHDとの関連性
ADHDと睡眠時無呼吸症候群には密接な関連があることが研究で明らかになっています。
共通する症状
- 日中の集中力低下
- 衝動性の増加
- 疲労感
- イライラしやすさ
- 記憶力の問題
実際、ADHDの症状だと思っていたものが、実は睡眠時無呼吸症候群による二次的な症状だったというケースも珍しくありません。
痩せ型でも起こる睡眠時無呼吸症候群


一般的な誤解
「睡眠時無呼吸症候群は太った人の病気」という認識が一般的ですが、これは大きな誤解です。確かに肥満は主要なリスク因子の一つですが、痩せ型の人でも十分に発症する可能性があります。
痩せ型の無呼吸の特徴
痩せ型の睡眠時無呼吸症候群には以下のような特徴があります:
解剖学的要因
- 下顎が小さい(小下顎症)
- 舌が相対的に大きい
- 気道が生まれつき狭い
- 扁桃腺の肥大
機能的要因
- 筋力の低下
- 姿勢の問題
- アレルギー性鼻炎による鼻閉
姿勢不良と睡眠時無呼吸症候群の関係


現代人に多い姿勢の問題
デスクワークやスマートフォンの普及により、現代人の多くが以下のような姿勢の問題を抱えています:
前方頭位姿勢(Forward Head Posture)
- 頭が前に突き出た姿勢
- 首や肩の筋肉に負担
- 気道の圧迫を引き起こす
巻き肩
- 肩が前に巻き込んだ状態
- 胸郭の可動性低下
- 呼吸の浅さにつながる
猫背
- 背中が丸まった姿勢
- 肺の拡張を制限
- 横隔膜の動きを妨げる
体幹機能と気道の関係:理学療法士の視点


理学療法士として特に注目したいのは、体幹機能(特に腹筋群)と気道の関係です。
腹筋が弱いことの影響
腹筋群は呼吸の補助筋として重要な役割を果たしますが、筋力が極端に低下すると以下の問題が生じます:
- 呼吸パターンの異常
- 横隔膜呼吸の効率低下
- 胸式呼吸への依存
- 呼吸補助筋の過緊張
- 姿勢制御の破綻
- 体幹安定性の欠如
- 代償的な頸部過伸展
- 胸椎後弯の増強
- 気道への直接的影響
- 舌根沈下の促進
- 軟口蓋の位置異常
- 咽頭腔の狭小化
私の場合の典型例 極端に弱い腹筋により、立位でも座位でも体幹の安定性が保てず、頭部前方突出と猫背が習慣化していました。これが気道狭窄の主要因となっていたのです。
私の経験:姿勢改善による変化
診断前の状況
睡眠時無呼吸症候群の診断を受ける前、私は以下のような症状に悩まされていました
- 毎朝の激しい疲労感
- 日中の強い眠気
- ADHDの症状の悪化
- 頭痛の頻発
- 集中力の著しい低下
姿勢との関係に気づく
理学療法士として患者さんの姿勢を日々評価していながら、自分の姿勢については盲点になっていました。
理学療法士の仕事は立位での治療が中心ですが、それでも記録業務や休憩時間での姿勢に問題があり、典型的な前方頭位姿勢になっていました。
検査結果と重症度
検査結果は衝撃的でした:
- BMI:17.8(明らかな痩せ型)
- AHI(無呼吸低呼吸指数):40回/時間
- 重症度:重度(AHI 30以上)
- 最長無呼吸時間:45秒
- 最低酸素飽和度:78%



痩せ型でも重度に?
痩せ型でありながら重度の睡眠時無呼吸症候群という診断に、医師も驚いていました。1分間に40回も呼吸が止まっていたということは、ほぼ毎日、何百回も呼吸が止まっていたことになります。これでは疲れが取れないのも当然でした。
CPAP治療の開始
医師からはCPAP(持続陽圧呼吸療法)を勧められました。
CPAP治療の詳細
- 治療開始:診断から2週間後
- 使用機器:フィッシャー&パイケル SleepStyle
- 設定圧:8cmH2O(自動調整モード)
- 月額費用:約4,500円(保険適用3割負担)
CPAP治療による変化
CPAP使用開始から1週間で劇的な変化を実感しました。朝の目覚めは「沼の底から出てきたような清々しさ」があり、これまで感じたことのない爽快感でした。



人生が変わった!
- 朝の目覚めの質の劇的改善
- 日中の眠気の完全な消失
- ADHDの症状の大幅な改善
- 集中力の持続時間の延長
- 頭痛の消失
- 妻も安心して眠れるように
具体的な改善方法
日中の姿勢改善
立位での姿勢意識(理学療法士の仕事環境での工夫)
- 患者治療中も腹部の軽い収縮を意識
- 1時間ごとの姿勢チェック
- 治療間の休憩時に体幹リセット運動
- 同僚との相互姿勢チェック
理学療法士が教える予防のための姿勢改善エクササイズ





予防がとても大切です
科学的根拠に基づく運動療法
理学療法士として、エビデンスに基づいた効果的なエクササイズをご紹介します。
腹横筋強化エクササイズ(ドローイン)
仰向けで膝を立て、手をお腹に置く
息をゆっくり吐きながら、へそを背骨に近づけるイメージで腹部を凹ませる
自然呼吸を続けながら10秒間保持
10回×3セット、朝と夜に行いましょう
効果:体幹安定性の向上、呼吸機能の改善
横隔膜機能改善エクササイズ
- 仰向けで片手を胸、片手をお腹に置く
- 胸の手は動かさず、お腹の手だけが上がるように呼吸
- 4秒で息を吸い、6秒で吐く
- 10回×3セット、1日3回
効果:横隔膜呼吸の再教育、気道周囲筋の協調性向上
注意点:仰向け位での無呼吸リスク 私の経験では、仰向けでの昼寝は5分でも無呼吸が起こることがありました。改善期間中は以下に注意してください:
- 昼寝は横向きで行う
- 枕の高さを適切に調整
- 短時間でも無呼吸の自覚があれば体位を変える
舌筋強化トレーニング
睡眠時無呼吸症候群の予防には、舌の筋肉を鍛えることも効果的です。
舌突出エクササイズ
- 口を大きく開け、舌をできるだけ前に突き出す
- 5秒間保持
- 10回×3セット、1日2回
舌圧迫エクササイズ
- 舌先を上顎に強く押し付ける
- 舌全体で上顎を押し上げるイメージで5秒間保持
- 10回×3セット、1日2回
舌回しエクササイズ
- 口を閉じた状態で、舌で歯茎を一周するように回す
- 右回り10回、左回り10回
- 1日3回
効果:舌根沈下の予防、咽頭筋群の強化、気道確保の改善
首こりとの関係
姿勢不良による睡眠時無呼吸症候群と肩こりには共通する原因があります。肩こりの根本的な改善方法も併せてご覧ください。首こり改善も気道確保に効果的です。


睡眠時の工夫
枕の選び方
- 高すぎず低すぎない適度な高さ
- 首のカーブを自然に保てるもの
- 素材は個人の好みに合わせて選択
寝姿勢の改善
- 横向き寝を基本とする
- 抱き枕を使用して体位を安定させる
- うつ伏せ寝は避ける
睡眠環境の整備
- 室温は18-22度に保つ
- 湿度は40-60%が理想
- 遮光カーテンで光を遮断
- 静かな環境を作る
睡眠リズムの改善 睡眠時無呼吸症候群の改善には、質の良い睡眠リズムを整えることも重要です。朝の光刺激は体内時計をリセットし、夜の自然な眠気を促進します。こちらの記事では、光療法による睡眠リズム改善について詳しく解説していますので、併せて参考にしてください。


専門的な治療について


医療機関での診断
睡眠時無呼吸症候群の診断には以下の検査が行われます:
終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)
- 入院での詳細な睡眠検査
- 最も正確な診断方法
簡易検査
- 自宅でできる検査
- スクリーニング目的で使用
治療選択肢
CPAP療法
- 中等度から重度の場合の標準治療
- 機器により気道に陽圧をかける
- 月額費用:約4,000-5,000円(保険適用3割負担)
- 効果は即座に実感できることが多い
私の場合のCPAP体験
- 使用開始から1週間で劇的な改善
- 朝の目覚めが「沼の底から出てきたような清々しさ」
- 日中の眠気が完全に消失
- 妻も安心して眠れるようになった
マウスピース治療
- 軽度から中等度に適用
- 下顎を前方に移動させて気道を確保
外科治療
- 解剖学的な問題がある場合
- 扁桃摘出術、鼻中隔矯正術など
ADHDとの相乗効果を意識した対策


習慣化のコツ
ADHDの特性を活かした習慣化の方法:
視覚的なリマインダー
- 姿勢チェックのための付箋
- スマートフォンのアラーム設定
- 鏡の前にチェックリスト
ルーティンの簡素化
- 複雑すぎない改善方法を選ぶ
- 一度に多くのことを変えようとしない
- 小さな成功を積み重ねる
集中力向上のための環境整備
集中しやすい環境作り
- デスク周りの整理整頓
- 気が散る要素の除去
- 適切な照明の確保
休憩の重要性
- ポモドーロテクニックの活用
- 休憩時間の姿勢リセット
- 軽い運動の取り入れ
まとめ:総合的なアプローチの重要性


睡眠時無呼吸症候群、特に痩せ型の方の場合、姿勢不良が大きな要因となることが分かりました。ADHDの特性も相まって、この問題は複雑になりがちですが、適切なアプローチで改善は十分可能です。
重要なポイント
- 早期の専門医受診:症状があれば迷わず睡眠専門外来を受診
- 姿勢改善の継続:日常生活での意識的な取り組み
- 睡眠環境の整備:質の良い睡眠のための環境作り
- ADHDとの相乗効果を意識:特性を理解した上での対策
- 長期的な視点:短期間での劇的な変化を期待せず、継続的な改善を目指す
私自身、この問題に向き合うことで、ADHDの症状も含めて生活の質が大幅に改善されました。同じような悩みを持つ方々の参考になれば幸いです。



一人で悩まないで
睡眠は人生の約3分の1を占める重要な時間です。その質を向上させることで、残りの3分の2の時間もより充実したものになるはずです。
この記事は個人の体験に基づいて書かれており、医学的アドバイスに代わるものではありません。症状がある場合は、必ず専門医にご相談ください。
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同じような悩みを持つ方に届くかもしれません。


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